黒い影(11)

創作の怖い話 File.133



投稿者 でび一星人 様





僕は適当に一言二言返事をして、自分の部屋へと非難した。

やたらと香水臭かった。

練習着を脱ぎ、ジャージを着て洗濯機に放り込みに行く時も、姉ちゃんの友達は僕を【チラ見】していた。


 自分の家なのに非常に居辛い・・・。


足早にシャワーを浴び、練習着をベランダに干し、

服を着替えて僕は外に出た。

・・・氷室さんとの待ち合わせまではまだ1時間以上あるけど、他にやる事も無いので駅に向かった。

 駅の改札口が待ち合わせ場所だったから。


 

 やたらと早くに待ち合わせ場所にも着いてしまい、

じっとしているのも暇なので売店でサンスポとココアを買った。

僕はコーヒーが苦手だからね。


 サンスポの詰め将棋を1分で解き、

来期の新人の目玉とかの記事を読んでいると、


「あれ〜?八木君?」

と、後ろから声をかけられた。

振り向くと・・・一瞬誰か解らなかったが、キレイに着飾った氷室さんが居た。

「・・・氷室さん・・・早いね・・・。」

「う、うんうん。 暇だったもので・・・。 それより八木君もやたらと早くない? まだ50分くらいあるよ?待ち合わせ時間まで。」

軽く微笑みながら氷室さんはそう言った。


「・・・まあ・・。いろいろあってね・・・。」


「フフ。とりあえず、早く合流できて良かったとしておこっか。 じゃ、行こう!」

氷室さんはカバンからカードを取り出し、僕の分の切符も買ってくれた。

「・・・悪いから・・・。」と言って電車賃分のお金を渡そうとしても頑として受け取ってくれなかった。


 電車に揺られながら、僕は気になったので、


「・・・氷室さん、今日はメガネかけてないみたいだけど、見えるの?」

と聞くと、

「今日はコンタクトだから平気。 休日用なんだよ。」

と言ってニコっと笑った。

なんというか、普段の氷室さんのイメージとは違い・・・。

少しだけど僕の胸は何かにギュっと抑えられたような感じになった。




 映画は、氷室さんが雑誌で調べてくれていたので、それを見る事にした。

主人公のOLが男にハマリ、どん底まで落ちていくダークな内容だった。



 「・・・ゴメンね・・。八木君・・・。まさかこんな暗い気持になる映画だったなんて・・・。」

映画を見終わり、2人はマクドでジュースを飲んでいた。

「・・・いや、おもしろかったけど僕は・・・。」


「ほ、本当?」

氷室さんの妙にホっとした顔を見ていると、なんだか僕まで嬉しい気分になった。


 


 「それじゃぁ。またね。八木君。」

正直、氷室さんとはもうすこしゆっくりと話をしていたかった。

だが、時間は待ってはくれない。

師匠の家に将棋を指しに行く時間になってしまった。


 「・・・じゃぁ・・・。また電話するから・・・。」

そう、僕が言った時だった。


「・・・ん・・・。」


氷室さんの横に、黒い大きな影が見えた。


「・・氷室さん・・?」

「ん?」

氷室さんはキョトンとしている。


氷室さんはゆらゆら揺らめいているその大きな影にはまったく気付いていない様子だ。


「・・・い、いや。何でも無い・・・。」

「ん?フフ。変なの。 じゃあ、またね。」

「・・・うん・・・。」


 氷室さんは家に向かっていく途中、自分の携帯電話を見て、

「誰だろう・・・。知らない番号からいっぱい着信入ってる・・・。」

と呟いていた・・・。

その間も、【黒い影】は氷室さんの隣でゆらめきながらつきまとっていた・・・。




 


 「フェーーーックション! ズズ・・・あぁ〜〜。」


師匠の家に行くと、師匠はヒエピタをオデコに貼りながら出てきた。

「あぁ〜。鎌司か。ちょっと風邪引いてもてな。 今日は休みや。 帰れ帰れ。シッシッシッ。」


・・・先に連絡くれよ・・・。


 僕は一礼して師匠の家を後にし、帰路に着こうとすると、

「あ、オイ!鎌司!」

師匠が呼び止めてきた。

師匠は、

「どうせお前はワシがヒエピタ貼ってるのが、オデコかアタマかで迷ってるんやろ? オデコやからな!ココは!」

 ・・・と、つるつるのアタマをペシペシやっていたのでシカトした・・・。



 

 さて。

今は夕方の五時過ぎ。

もう姉ちゃん達は吉宗先輩とのゴウコンに出かけたのだろうか。

出かけたのなら良いけど、もし今家に帰ってまだ彼女達が居たら何かとしんどい・・・。


 以上の理由で、僕は家に帰るのをためらった。


と、同時に、氷室さんにつきまとっていた【黒い影】の事が少し気になってもいた。

以上の理由から、

僕は久しぶりに【おしょう】の寺に行く事にした。


 おしょうは、僕が小学校の頃よく遊びに行っていたお寺の住職だ。


 なぜ僕がおしょうのところに遊びに行ってたのかというと、

僕には小さい頃【霊感】があったからだ。

ハッキリと見えた。

保育所に行っていた頃は【霊】だと気付かずに毎日遊んでいた女の子が居たくらいだ。



 「・・・おしょうー・・・。」

門の前に立ち、おしょうを呼ぶ。


 ギギィ・・・

門がゆっくりと開く。


・・・おしょうがその隙間からこちらを覗き見ている・・・。

「・・・おしょう・・・。何だよその警戒態勢は・・・。」


 和室に通され、おしょうがお茶を運んで来てくれた。

「いやぁ。久しぶりやね。鎌司君。 全然顔見せんと・・・。 元気やったかい?」

「・・・ええ。 多忙の為あまり顔見せできずにすいません・・・。」

「いやいやぁ。 久々に見れて嬉しいわ。 で、どう? 霊感は上がった?」

「・・いえ。それが、もう最近ではほとんど見なくなりまして・・・。」

「ええ〜。な、何やぁ。全然顔見せへん思ったら。」

「・・・す、すいません・・・。」

「鎌司君には、ホンマに期待しとったんやでぇ・・・。 ちゃんと修行したら、その道でバリバリ食っていける才能あったのにぃ・・・。」

「は・・はぁ・・・。」


・・・あ、そうだ。 例の【黒い影】の事を聞かないと・・・。

「・・・そ、それよりおしょう。今日は聞きたい事があって来たんですが・・・。」

「ん?聞きたい事?・・・何や。久しぶりに顔見せた思ったら、相談事かいなぁ・・・。」

「・・・すいません・・・。」

「いやいや。まあ、何があったんや?言うてみなさい。」

「・・・実は、最近よく遊ぶ友達がいるのですが、その子の隣に、【黒い影】が見えたんです。・・・人より少し大きめの・・・。」

「ふむ・・・。黒い影・・か・・・。」

おしょうはそう言うと、お茶をズズっと飲み干した。

そして障子を開け、もう薄暗くなった空を眺めながら、

「鎌司君。 時代と共に、便利になったもんやなぁ。」

と言った。

「・・・はぁ・・・。」

今の所、ワケがわからなかったのでそれくらいしか返事ができなかった。


おしょうは

「なぁ。鎌司君。 昔はこの季節のこんな時間に、障子をこんなに開けちらかす事なんか出来んかった。 理由は寒いからや。」

「・・・。」



→黒い影(12)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話3]